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1997年8月 源流釣友会 菅原 徳蔵 |
三度目の北海道釣行を終えて、パソコンに向かった。北海道の魅力って何だろう。私は、満足のいかない釣りをしたにもかかわらず、毎年北海道にだんだんのめり込んでいく自分をはっきりと実感できる。言葉で表現するのは難しいが、簡単に言えば、「ヒグマに守られたイワナの聖域」あるいは「日本のイワナの源流を辿ることのできる最後の渓谷」という実感である。日高は奥が深い。日高の源流を訪れて3年、オショロコマは、十勝川源流と沙流川源流、それより南の沢はアメマス系のイワナの分布域であるというアウトラインを朧気ながらつかむことができたような気がする。 サラリーマン釣り師の悲劇 北海道の大イワナに熱き思いを馳せて三度目の挑戦。だが、今まで経験したこともない大雨の連続、台風11号から変わった温帯低気圧は北海道に居座り続けた。日高地方は、出発前日から大雨に見舞われ、各地で道路の通行止め、田畑の冠水被害が相次いでいた。サラリーマン釣り師にとって、一週間のまとまった休みをとれるのは、盆しかない。釣行を延期することも断念することもできない。今回の釣り旅は、その悲劇をまともに受けてしまった。しかし、失うものあれば得るものも多かったというのが正直な気持ちだ。 北海道に上陸したら横殴りの雨だった。めざす静内川の流れは、これ以上ないほどの濁流が渦巻き、目が回るような凄まじい流れだった。静内ダム湖には、3年前から続いている災害復旧工事は未だ終わらず、堅いゲートは閉ざされたままだった。もともとコイポクは無理と判断していたので、目的のシュンベツ川へと向かう。源流へ進めば、もしかしたら濁流はなくなるかもしれない。だが、春別ダムは、危険水位を越えており、大量に流れ込む流木の処理が続けられていた。、車止めまで行っても濁流は同じだった。枝沢はどうかといろいろ探したが、結果は同じ。遡行どころか、竿を出すポイントすら皆無だった。災害復旧工事に遮断されて以来3年、お陰で源流部のイワナたちは、禁漁の恩恵が3年も続いたことになる。ただでさえ、日高の中で最も懐が深く魅力的な渓に、3年間の禁漁が加わった。これほど魅惑的な源流は、日本中探してもここしかないだろう。 それだけに残念無念、失恋の想いをさらに募らせながら、沢ではなく静内温泉の森キャンプ場に泊まった。大粒の雨音で目が覚める。ラジオを聞けば、前線は停滞、今日も大雨警報とのこと。ここにいたのでは、竿を出さずに終わってしまう。次なる沢をめざして車を走らせた。 日高山脈の東側をめざす最短距離は、浦河町から広尾町を結ぶ国道 236号線だ。まだ工事中だが、いつ完成するのか、それを確かめるために日高幌別川沿いの国道を走った。水量は多いものの、静内川とは違い不思議と濁りは少ない。ニオベツ川に架かる五色橋を越えると、工事のための監視小屋、中からオバサンが出てきた。工事のため通行止めとのこと。聞けば、今年の9月に開通とのことだった。おしい。黄金道路は、大雨のたびに通行止めとなる。地元の人たちにとっては、日高南部の山をトンネルで通過する国道の完成は悲願の道路に違いない。諦めて橋の上から遙か下を流れるニオベツ川を眺める。濁流ばかり眺めてきたせいか、笹濁りの流れに釣りの誘惑が走った。早速準備にとりかかり、橋のたもとから沢へと降りる。近づけば、とても対岸へ渡れる流れではなかった。水の力に、人間など勝てっこない。枝沢のメナシュンベツ川はどうか。 草地の中の農道を走り、川沿いの林道を進む。この沢は楽古岳(1,472m)への登山道となっている。入林ポストのある橋を越え、滝の沢に架かる橋の左手に真新しい小屋が見えた。平成7年に建て替えたばかりの楽古山荘だった。中から外人二人が出てきた。 メナシュンベツ川の尺イワナ 壊れかけた林道終点から笹藪に入った。笹は以外に深く、胸までの高さだ。足下は全く見えず、ヒグマが笹の下に横たわっているような気がして不気味だった。泳ぐように笹藪を過ぎり、沢へ入る。釜は沸き返り、流れは、圧倒するような白泡となって襲ってきた。大きな釜の右手にわずかな緩流帯があった。流れの速さから判断してオモリは3Bを選択。そっと緩い右を狙って振り込む。何のアタリもない。竿を上げようとしたら根がかり、やってしまったと思い引っ張る。すると、糸の向こうから何かが動く感触が伝わってきた。強引に引き抜くと、北海道ではお決まりのハナカジカだ。手元に引き寄せてその大きさに驚く。何と16センチもあるジャンボカジカだった。 渓をすっぽり包み込む原生林、増水した階段状の流れを上れば上るほど、イワナの匂いは強くなってきた。ノートに記されたニジマス、ヤマメの文字が嘘に思えてならない。やっと壺の左に緩い浅瀬を見つけた。悪いことに流木が横たわり、枝が邪魔をしていた。その枝のわずかな隙間を縫って、垂直に餌を落とす。送り込めば、巻き込む流れに乗った。その瞬間、目印がスーッと動き、流れの中心めがけて引き込まれた。すかさず合わせると重い。強引に抜き上げると、丸々太った魚体が左右前後にバタつきながら近づいてきた。釣り上げた魚をしばし観察、まぎれもなく、白い斑点の居付きイワナだ。計測すると尺に若干とどかないが、29センチは越えている。 右に左についている登山道、そんな騒々しい流れから尺クラスのイワナが餌を追った。東北ならば、確実に小物ばかりの区間だが、さすがに北海道だ。煮えたぎる階段の流れは、ポイントはごくわずか、その僅かなポイントから源流特有の真っ黒のイワナや橙色のイワナが煙る沢に舞った。斑点は真っ白、東北独特の橙色の斑点は皆無だった。 雨はあいもかわらず続いていた。登山道を下り、楽古山荘へ。なんとも楽で快適だ。そんな俗っぽい沢から尺クラスのイワナが釣れてくる。改めて北海道の沢は、凄いと思った。こんなことが続くから北海道にのめり込んでしまうのだ。 贅沢な食事と質素な食事 誰もいないと思った山荘の二階を覗くと、シュラフが二つあった。新聞紙の上に松ぼっくりの実や葉が沢山並べられていた。夕食の準備をしていると、山荘をベースに自然探索を楽しむ二人が帰ってきた。男はヒゲをたくわえ、女は金髪だった。日本語はほとんどできないようだ。 北海道には、大雨だけでなく低温注意報も出されていた。なんと真夏なのに9度、寒い。ストーブに薪をくべながら暖をとった。ロシア風の外人は、登山者ではなく、異質な釣り人に警戒心をもっているようだった。 カジカは骨酒が一番、割り箸を串代わりにしてストーブで焼いていると、二人は、これはなんだ、と言わんばかりに覗き込んだ。副会長が、「カジカ、カジカだよ」と叫んだ。わかったようなわからないような顔をしながら、初めて笑った。 イワナの刺身と唐揚げ、ムニエル、ジンギスカン、フキの煮付けなど料理は贅沢そのもの。カジカの骨酒で乾杯だ。 雨音を遮断するかのように、若者が玄関に顔を出した。 |